とある昼下がりのこと
私は、充分にすいた下りの各駅停車の電車に座っていた。
ある駅に着き、ドアが開き、そして閉じようという時に
腰が90度に曲がり、杖をついたおばあさんが急いで乗り込んできたのに気づいた。
おばあさんはおじいさんの手をひいて、
おじいさんはおじいさんなりの小走りで前のめりにひっぱられてきた。
おばあさんのみかけと実際の行動、スピードにはギャップがあった。
おじいさんは座るなり(というか座らされるなり)
帽子を脱いで一息ついた。
二人とも安心したように
まっすぐ前を向いて。
その年齢と同じくらいの年月着込んだように見える簡単な衣服を着、
こぢんまりと並んで座る二人は電車になじんでいるようには見えなかった。
大地から離れていることに居心地の悪さを感じているかのよう。
私は切ないようなほのぼのとしたような気持ちになった。(勝手に私の世界)
目的の駅に着いたので
降りようと立ちあがったところ、
その二人も降りるらしく同じく席を立った。
乗るときとは違って、90度腰が曲がったおばあさんは
おじいさんの手もひかず、そそくさと先に降りてしまった。
まるで一人旅のように。
私は歩くスピードの遅いおじいさんが
ドアが閉まる前に出られるのか気になり
何気なくサイド・バイ・サイドの位置取り。
思ったよりもドアがゆっくりと閉まり
おじいさんは
難なく降りることができた。
「おばあさん、そんな感じでいいの?」と目をやると
おばあさんは反対側のホームで準急の乗り換えをしようとしていた。
そして
おじいさんもゆっくりと
おばあさんのうしろにスタンバイ。
その駅に降りるのが2回目の私よりも
実は相当
上手な二人であったのだ。
「みかけと実際は違う」という例を
目の当りにした暑い昼下がりでありました。