ブーツの踵の修理のために、靴屋を探し、尋ねた。小さな商店街のはずれにその店はあった。店構えは洋風モダンな感じ。店内はお店の左半分がそのままにステキな靴屋、右半分にはなぜか食品!しかも和風。食品棚の前には靴屋のサロンにふさわしいソファと椅子。3人の綺麗におめかしした年配の女性がそこで、とても華やかに会話を交わしている。店の奥にご主人とおぼしき初老の男性とテーブルをはさんだ向かいの椅子に若い女性客。テーブルには修理依頼品と思われるバッグ。それがほぼ一瞬にして私の目に飛び込んで来た光景だ。けっこう情報量多いでしょ!?ご主人の「ちょっと待ってください」という言葉に答え、私はちょうどご婦人方の真向かいに位置する、箱に生地をかぶせたようなベンチに腰かけた。
’あいまいなこの感じ・・・’ 私は友達を外に待たせていたので、よく知る ’この感じ・・・’ の空気に、ただ待っているのは危険、どういった順番に私の用事が組み込まれているのか確かめた方がよいような気がしてきた。
なんとかご婦人のうちの一人の視線を捉え、聞いてみた。「順番を待っているのですか?」と。ご婦人は即刻、少しおおげさな感じで否定した。「では、次は私でいいんですね?」と念を押すと、「そう。今、作ってるのを待ってるだけだから」と彼女は答え、すぐにお仲間の方に向き直った。「あー、そうか、よかった」と安心したものの、いったい何を作ってもらっているのか、淡い疑問は残る。ここは靴屋のようだけど、ご主人は若い女性客の応対中で、他に何かを奥で作っているような気配も音もしないのだ。
そのうちに、若い男性の二人組がぶらりとやってきた。こういった靴屋(左半分の)にはあまり似合わないカジュアルないでたち。ご主人とは知り合いのようで何か言葉を交わしつつ、最初は待つそぶりを見せるものの、ご主人が忙しそうな様子だったので、また来るというようなことを言った。帰り際、ご主人が「あーどんぶり、持ってきて」だか「持っていって、、7つか8つ、、」みたいなことを伝え、若い男性は了解したというように答え、ともに3人は上を指さした。上、、、2階?それから、というのかその途中だったかもしれないが、やはり初老の男性が店に入るなり、「まだかな、、早かったか、、、」のようなこと呟きながら私の近くに腰掛けた。私のことは見えないかのように。で、ご主人はその間も仕事をしながら(女性客とのやり取りのこと)、「いや〜、やろうと思っていたんだけど、なんにも考えてないわ、、」と言い訳をした。訪問した男性は少し手厳しく「やろうと思ったって、もう午後になっちゃってるよ」と軽く批判気味。私には意味不明のそんな会話が飛び交う中、先の女性は帰り、私の番になった。途中、この引っ張りだこのご主人の携帯に電話が入り「あー、どんぶりね、はい。わかった。」と答えていた。
修理自体は無事に頼んだ。私が店を出る時も、入った時と同じテンションでご婦人方3名はふんだんな身振りで歓談中であった。
この小さな店一つの中で、いくつかの次元が存在していたようだった。新喜劇の舞台のような滞在10数分のできごとであった。
ちなみにご主人は私に今後の店の行く末について少し漏らしていた。方向性を店の右半分にシフトするらしいのだ。